初心者向け舞城にピッタリだが、物理的なハードルが……/舞城王太郎『深夜百太郎』

舞城王太郎ファンとしてぼくが前々から困っていたのは、舞城の短編集で何を勧めるべきかだ。世間的には『スクールアタック・シンドローム』が評判がいいが、個人的にはあまりピンとこなかったので本心からは勧めづらい。他の短編集だと毒にも薬にもならないような短編もけっこうあり、やはり厳しい。長編だったら『煙か土か食い物』か『阿修羅ガール』か『好き好き大好き超愛してる。』あたりを勧めておければいいのだけれど……。

といったところで本書を読んで、「これだ」と思った。10ページ程度の短編1本1本の中に、死体とか家族とか愛とか調布とか西暁町とか、舞城らしさがたっぷり詰まっている。一応百物語なのでジャンル的にはホラーではあるが、めちゃくちゃ怖い話というわけではなく、どちらかというとホラーテイストのショートショートといった感じ。ボリュームたっぷりなので読むのに時間はかかるかもしれないが、1本1本はかなり短いのでのんびり読むのがいいかも。ぼくは1年くらいかけてちょこちょこ読みました。

ただまあ、物理的なハードルは高いかも。1500円で500ページが2冊なので、コスパはめちゃくちゃ良いが、全部読み通すのはちょっとつらい。1本1本にあまり意味のない写真が挿入されているが、それで1冊あたり50ページ分増量してしまっているのは、初心者向けとしては残念な要素。まあ10本ぐらい読めばわりと舞城の雰囲気はわかると思うので、舞城を勧めるときに貸すといいかも。