世界はポエムでできている/舞城王太郎『ディスコ探偵水曜日』
すっげえこれ。
この小説はポエムに満ちあふれている。意志が運命を作るだの愛が世界を作るだの、口にするのも恥ずかしいような、そんなポエムだ。ちょっと普通の小説じゃありえないぐらいの量だ。
そしてこの小説がすごいのは、そんなポエムを「ノベライズ」してしまうところ。舞城は、歯の浮くようなポエムを、そのままこの小説の世界の法則にしてしまう。だからこの小説はブッ飛んでいる。舞城のポエム通り、意志が運命を作り空間と時間はねじ曲がり、死んだ人間は生き返り主人公は複数人に分裂する。
もうめちゃくちゃだ。
続きを読む行き当たりばったりなシリーズだとようやく気づいた/十文字青『灰と幻想のグリムガル(12)」』
灰と幻想のグリムガル level.12 それはある島と竜を巡る伝説の始まり (オーバーラップ文庫)
- 作者: 十文字青
- 出版社/メーカー: オーバーラップ
- 発売日: 2018/03/25
- メディア: Kindle版
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ひっでえなーこれ。行き当たりばったりでだらだらと400ページ弱もくだらねー話読ませて、その果てのオチも良くも悪くもない微妙な出来。オチのほうはまだ我慢できますが、過程のほうは耐え難いものがある。
実は、『灰と幻想のグリムガル』シリーズは、一貫して前述のような問題点を持ち続けてきた。『グリムガル』では特に明らかな伏線もなく人が死んだり味方キャラがパーティから離脱したりする。そういう意味で、今までの『グリムガル』も基本的には行き当たりばったりな作品ではある。
ただ、それまではそのような行き当たりばったり感が、暗めのストーリーと組み合わさることによって、むしろリアリティを醸し出していた。でもこの巻では、そういう特徴が(作者曰く)「楽しい」ストーリーと組み合わさったことで、ひたすら能天気なだけの一冊になってしまっている。
……次の巻もこんな感じだったら、読むのやめちゃうかもなあ……。
十字キーってもう痕跡器官なのでは?/「デビルサマナー ソウルハッカーズ」
ペルソナシリーズ以外の女神転生シリーズをやるのは初めて。初心者向けメガテンって感じだねー。ペルソナシリーズ3作を計200時間以上やった身としては、30時間もかからず終わってしまうのはやや薄味感は否めないが、それはまあペルソナシリーズのほうが異常でもあるのでしょう。
ストーリーは若干古臭い印象は否めないが、まさに未来を言い当てているという面もある。たくさんのキャラ萌えを楽しむというわけにはいかないが、可愛いキャラクターはちゃんといるし、もちろん悪魔合体の楽しさなども健在(こういう言い方しちゃったけど、古参メガテンファンおこらないでー)。
そして、苦手意識があったメガテン特有の3Dダンジョンに慣れることができたのはラッキー。本作では、下画面にマップが表示されるのでとても見やすいということもあり、3Dダンジョンにしては比較的とっつきやすいと思う。総じてメガテンの特徴を維持しつつ、最大限プレイヤーにやさしいシステムになっている。
続きを読む演出の大切さをあらためて思い知らせてくれるドラマ/黒沢清「贖罪」
たぶん、話の都合の良さでいえば「告白」といい勝負だと思う。そんな都合よく15年後にぴったりと事件なんて起こんねーよとかなんとか、挙げようと思えばキリはない。
でも、そんなのどーでもよくね? と思わせてくれるほどに演出が圧倒的に素晴らしい。話が微妙なのに演出が輪をかけてダメだった「告白」とは対照的。このレベルの話で300分というのは若干長いような気がするんだけど、そんな長さを全然感じさせないほどにひとつひとつの映像描写が魅力的なんだと思う。
またそれを支える俳優陣もえらい。とくにびっくりしたのは小池栄子で、最初は小池栄子が新任教師とか無理ありすぎだろと思っていたんだけど、見れば見るほど小池栄子しかありえないと思わせてくれる。
続きを読む世界観を再利用するとSF書くの楽なのかねー?/長谷敏司『My Humanity』
現在放送中のアニメ「BEATLESS」の原作者・長谷敏司による短編集。どの作品も一定水準以上の短編にはなっており、そのうち「all, toi, toi」と「父たちの時間」はかなりの出来。SFの短編集って、露骨にクオリティの低いゆるふわ幻想文学短編が1〜2本くらい入っていることが多いんだけど、本書は気合いの入った短編ばかりなのでたいへん満足度は高い。
気になったのは世界観の再利用。本書に収録されている短編のうち、2本は『あなたのための物語』(ぼくは既読)の世界観を、1本は『BEATLESS』(途中で挫折。今度アニメ見ます)の世界観を再利用して作られている。そして、そういう世界観の再利用が小説的な効果を産むかというと、微妙。ただまあ、世界観を再利用する最大のメリットとして、作者がたいへん楽をできるという点はあるので、しょうがないといえばしょうがない。
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