高齢童貞男と蛇女の、シリーズ異色のラブストーリー/白石晃士「戦慄怪奇ファイル 超コワすぎ!FILE-02【暗黒奇譚!蛇女の怪】」

 

戦慄怪奇ファイル 超コワすぎ!FILE-02 暗黒奇譚!蛇女の怪 [DVD]

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これは新境地ですよ。いつもの「コワすぎ!」ではあれだけ存在感のあった工藤(大迫茂生)や市川(久保山智夏)は、今作では比較的脇役だ。そのかわりに実質的に主人公になってるのが、今作の相談者である櫻井(水澤紳吾)だ。

この櫻井がまたすごい。無職の高齢童貞だが、それでも心は純真だという設定なのかと思いきや、普通にストーカー行為とか盗撮とかしちゃうのでまったく同情できない。しかも無職童貞だけあっていちいち気弱で、すぐ工藤にいじめられる。ここらへんは、ダメ人間を描くのが圧倒的にうまい白石晃士の本領発揮でもある。

だから、ラストで自分の愛のために目を潰す櫻井の姿は、感動と割り切れなさが半々に混ざって、絶妙に奇妙な感触を覚える。この腑に落ちなさというかモヤモヤ感は、なかなか他所では味わえない。

 

欠点は、ディレクションのせいなのかもしれないのだけど、櫻井のセリフが(全体的に)モゴモゴしていて聞き取りづらいところぐらいかな。

超常現象ちゃんと解決しちゃった/白石晃士「戦慄怪奇ファイル 超コワすぎ!FILE-01【恐怖降臨!コックリさん】」

 

 わざわざ「コワすぎ!」の世界とは別のパラレルワールドに移して新シリーズ開始……なのだが、ノリはあまりかわりません。わざわざパラレルワールドに移した意味は(メタ的な意味を除けば)存在しない。比較的ストーリー構成の完成度は高いんだけど、それがそこまで作品自体の面白さにつながってるわけではないのよね。ニンニクで幽霊退治というのも陳腐だし。

ただちょっと面白いのが、かなりしっかり「コックリさん」の謎を解決しちゃったこと。「劇場版」を除くとここまできっちり1話完結させている作品はないと思うので(「最終章」は……まあ……ね)、そこはけっこう意外に感じた。

これがゲーム的リアリズムですか/白石晃士「戦慄怪奇ファイル コワすぎ! 最終章」

 

戦慄怪奇ファイル コワすぎ! 最終章 [DVD]

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 なんか見たことあるなーと思ったら、指を切る試練とか人を殺す試練とかがPS3のゲーム「HEAVY RAIN 心の軋むとき」に似てる。そして気づいたんだけど、これってゲーム的リアリズムなんじゃね?

ゲーム的リアリズム」というのは東浩紀が提唱した概念で、現代においてはループや選択肢といったゲーム的な手法がリアリティを持つということ。東はこの概念をもとに、桜坂洋『All You Need Is Kill』舞城王太郎『九十九十九』などを分析している。

が、ここではその「ゲーム的な手法」というのをもう少し広く考えてみよう。ゲームではよく、なんでやる必要があるのかよくわからないミッションを課され、それをこなすとなぜか報酬がもらえる。だからぼくたちはゲームで、報酬をもらうことを目的によくわからないミッションをこなし、よくわからないまま報酬をもらう。これも、「ゲーム的な手法」といえなくもないだろう。

これってまさに「最終章」でやっていることそのままですよねえ。なんでパンツを食べたり指を切ったり人を殺したりする必要があるのかはまったくわからないんだけど、田代(白石晃士)は工藤(大迫茂生)や市川(久保山智夏)を助けるためにそういうミッションをこなし、実際に工藤や市川は助かる。

ところで、こういう「なんでやる必要があるのかよくわからないミッション」がたくさんあるゲームは普通、「お使いゲー」と揶揄されている。そう考えると、この映画も「お使い映画」といえるのではないか。だからこそ、この映画はあまり面白くないのだ。

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低予算ホラーをここまで昇華させるとは!/白石晃士「戦慄怪奇ファイル コワすぎ! 史上最恐の劇場版」

 

戦慄怪奇ファイル コワすぎ!  史上最恐の劇場版 [DVD]

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 超壮大な話になっていて驚き。最初は低予算ホラーだったのに、そこに精神異常・戦争・暴力・タイムスリップ・親子の運命・怪獣など、数え切れないほどの要素がこれでもかというぐらい詰め込まれており、なおかつそれがたった80分にまとめられている。シリーズモノとはいえ、この濃厚さはものすごく貴重。さらに恐ろしいことにこの作品では、過去の「コワすぎ!」シリーズ に出てきた伏線を一気に回収しにかかる(一部回収されない伏線はあるんだけれど)。その綿密に練られたストーリー展開に、珍しく涙してしまった。

 ところで、悪者サイドに電力会社(おそらく東京電力)が出てくるの、3.11以後だからですよねえ。そう思ってみてみると、科学者斎藤(金子二郎)の「想定内」連呼は御用学者のようにも見える。まあ政治性を気にする人は気になるかもね。ぼくは好きです。

クオリティは並だけどめっちゃ笑える/白石晃士「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!劇場版・序章【真説・四谷怪談 お岩の呪い】」

 

 単純な作品の出来という意味では、「コワすぎ!」シリーズの中では平凡な部類に入ると思う。「人喰い河童伝説」のようなド直球さも、「真相!トイレの花子さん」のようなめちゃめちゃな面白さもなく、良く言えば無難、悪くいえば冒険していない感じがある。もちろん「コワすぎ!」シリーズのノリ自体は健在なのだけれど……。

しかしこの作品のいいところは、なぜか笑っちゃうような「シリアスな笑い」がたくさんあること(いや「シリアスな笑い」はこれまでにもあったのだけど、「真説・四谷怪談 お岩の呪い」ではその傾向が顕著なように思う)。たとえば工藤(大迫茂生)がいきなりピッキングをはじめるだとか、浄霊師の道玄(宇賀神明宏)を工藤がぶん殴るだとか、なぜかいちいち面白い。なので、「コワすぎ!」シリーズの中で一番声を上げて笑った回数が多かった。白石晃士がこれらの面白さを狙ってやっているのかどうかはよくわからないが、とにかく笑っちゃうんだからしかたない。

あと、今までの作品と違って、フィクション性を主題にしているのも興味深い。他の「コワすぎ!」シリーズでは一貫して、現実に由来のあるもの(か、由来の不明なもの)が怪奇として登場したのだけど、今回の場合は、お岩さんが全くの想像の産物であることが語られる。どこがどうつながってるのかはよくわからないけど、なんにせよちょっと気になる。

 

どうでもいいんだけど、霊界のシーンのCGのクオリティ明らかに向上してません? やはり劇場版序章ということで、予算がいっぱいあったの……?

廃校と時空を駆け抜ける、白石晃士最高傑作!/白石晃士「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!FILE-04【真相!トイレの花子さん】」

 

戦慄怪奇ファイル コワすぎ! FILE-04 真相!トイレの花子さん [DVD]

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 いやーこれは最高傑作でしょう。「オカルト」と同じくらい好き。

基本的な話のパターンは3作目「人喰い河童伝説」と似ているけれど、構成一つ一つが圧倒的に優れている。廃校を舞台に、時間を超え空間を超えて延々と疾走するドライブ感もすさまじい。強いて欠点を上げるのであれば、「トイレの花子さん」という題材がそこまで活きているわけではないところか(とはいっても、白石晃士の映画ってそんなのばっかりだしねー)。

そして、その面白さを最大限に増幅させているのが、中盤からラストまでずっと続く、長回し風映像。これはもう、白石晃士の手腕でしょう。時間をぽんぽん超えるところはともかく、階段のループなど、どこで映像を繋いでるのかよくわからなかった箇所も結構ある。この映像の良さのお陰で、中盤からはずっと画面に惹きつけられっぱなし。役者もストーリーも構成も映像技術もすべてが完成された、白石晃士の最高傑作です。

これぞ正統派!(?) 「コワすぎ!」の真骨頂はここから/白石晃士「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!FILE-03【人喰い河童伝説】」

 

戦慄怪奇ファイル コワすぎ! FILE-03 人喰い河童伝説 [DVD]

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「コワすぎ!」シリーズ1作目の「口裂け女捕獲作戦」と2作目の「震える幽霊」は、もちろん見どころのある映画ではあるものの、その一方でシリーズの初期作特有の、シリーズ自体の方向性の定まらなさがあったように感じた。なので、いかにも「コワすぎ!」っぽい話が展開されるのは、3作目の「人喰い河童伝説」からだとぼくは思う。

最初はあまり面白くないホラー系のモニュメンタリーなのが、工藤(大迫茂生)の強引さによって幽霊との対決という流れになり、そこに相談者の真剣さやうさんくさい霊媒師も加わり、最終的には工藤が暴力で幽霊を退治するものの、最後はバッドエンド、という「コワすぎ!」の王道パターンが、きれいに確立されている。そしてぼくは、このパターンはオーソドックスなプロットを辿った結果なのだと思う。そういう優等生的だがありがちなプロットに、白石晃士特有のミーム(幽霊、モニュメンタリー、暴力、霊媒師etc...)をこれでもかとぶち込むと、正統派な「コワすぎ!」、というなんだか自家撞着したような作品ができあがるのだ(ほめてます)。

あと気づいたのは、「口裂け女捕獲作戦」や「震える幽霊」では弱かった、「少年漫画的な熱さ」が、この「人喰い河童伝説」には存在する、ということ。そしてこの少年漫画的な熱さは、その後の「コワすぎ!」シリーズにも引き継がれている。この熱さも「コワすぎ!」シリーズの魅力の一つかもしれない。