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いまさら古典部といわれても/米澤穂信『いまさら翼といわれても』

書評 小説 ミステリー

 

 だって『ふたりの距離の概算』から6年ぶりですよ6年ぶり。米澤は決して筆が遅い作家ではないのに、しかも短編集なのに。

とはいえさすがにここ数年ミステリーで異様な人気を博しているだけあって、どの短篇も及第点には達している。ついでに米澤は小説家として(ミステリー作家として、ではなく)器用でもあるので、十分楽しめます。
ただ、これは個人的な問題なんだけれども、早坂吝『虹の歯ブラシ』を読んでからというものミステリーの短編集というものに対するハードルが上がっている。そのため、ぼくの評価は多少マイナスすぎるかもしれないので、その点はご注意を。あとネタバレもあるので注意。

 


読んでて思ったんだけど、やっぱりミステリーの短編集って難しいよねー。連作短編集(『氷菓』も連作短編に分類されるのかな?)ならまだどうにかなるんだけど、こう完全に短編にされちゃうと、その枠内で面白い小説を作るなんてなかなかできない。『いまさら翼といわれても』もご多分に漏れず、ミステリーとして優れている短編はあんまりないと思う。
が、その一方で、ラノベ的なキャラクター小説としてはうまく作られている。本作のテーマは公式の宣伝によれば「大人になる」らしく、たしかにそういうテーマは書けてる。ただ、こういうテーマってミステリーのプロットとうまく組み合わせなくちゃいけないんじゃないの? それができているのは、「鏡には映らない」くらいかなあ。
そして、だからこそ最大の問題点は、「いまさら古典部といわれても」問題なんだよね。どういうことかというと、キャラクター小説的な小説の作り方に思いっきり依存してミステリーを作るのなら、ある程度書くペースを狭めなきゃダメなんじゃないの? という話。ぼくは結構「古典部シリーズ」が好きで、ついでにたまたま最近アニメを見直していたのでわりと楽しめたけど、シリーズを何度も読み返すわけではないような「そこそこすき」ぐらいの読者にとっては……。

 

余談だけど、ラノベ的なキャラクター小説を前提に短編集をつくったら、それは一種の連作短編になるのではないかな。そういう意味でも、ラノベとかと連作短編は相性がいいはず(ビブリアとか東川篤哉の短編集とかも、たぶんこの文脈に位置している)。あと、「学校」っていう舞台も連作短編とかなり親和性高いはず。本来まったく関係のないはずの男と女が自然に出会うことができる舞台って学校ぐらいじゃない? 逆にラノベ側から見ても、非現実的なことも殺人事件も使わずにに読者に驚きを与えるという意味で、「日常の謎」は便利な道具のはず。「日常の謎」とキャラクター小説の関係についての評論とかってないかな(ポモに転がって「大きな物語の終焉」とか言い出したらアレだが)。

 

閑話休題。以下、個別の作品について。
「箱の中の欠落」はいまいち。トリックはわりと簡単で、細かい詰めまではできなくても、大まかなトリックはわかるでしょう。なんでタイトルが『匣の中の失楽』オマージュなのかもよくわかんない。
「鏡には映らない」は小説としてはなかなか良作で、この短編集の中だとたぶんベスト。摩耶花たそ視点というのも新鮮でいいし、「大人になる」という本作のテーマもうまく達成されていると思う。あと、よく言われていた、「なぜ奉太郎は摩耶花に嫌われているのか?」に対する回答がでたのは、ファンとしては嬉しいところ。ただし、ミステリーとしては失格スレスレじゃない? 作品内情報だけで解けないと思う(ここらへんはミステリーファンの意見も聞きたいところ)。ちなみにタイトルは、オチと、鏡が左右対称に移すけど上下は非対称であることのダブルミーニングだと思う。
「連峰は晴れているか」はアニメ化もされているので、知ってる人はまあまあ多いはず。アニメで見たときも思ったけど、やっぱりミステリーとしてはいまいちかなー。でも結構エモさはあるのでいいんじゃないかな。あとどーでもいいけど、「連峰は晴れているか」っていうタイトルは米澤穂信作品の中で一番かっこいいと思う。
「わたしたちの伝説の一冊」は、これ、ミステリーじゃないよねえ。作者としては奉太郎の読書感想文が伏線のつもりなのかもしれないけど、話につながりがなさすぎて伏線になってないと思った。ただ、これも摩耶花視点ででやたら重い話だけど、ちょっとだけ甘ーい要素も入れてくれていて、短編小説としてはアリです。

「長い休日」は、うーーーーん。これもあんまりミステリーじゃなくてコメントしづらい。決してしょーもない作品とは断言できないので微妙なところ。

表題作「いまさら翼といわれても」は、けっして悪い小説ではない。ミステリーとしてはちょっと弱いけど、それでも上2つよりはマシだし。ただ、別に語るところがあるかと言われると……。