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今まで以上にアイデア一発勝負/早坂吝『双蛇密室』

 

双蛇密室 (講談社ノベルス)

双蛇密室 (講談社ノベルス)

 

 早坂吝の援交探偵シリーズ最新作は、過去3作と比べてずっとアイデア勝負。アイデアの面白さはさすがに信頼と安心の早坂といった感じだけど、タイトルの時点で問題編も解答編もある程度の流れが予想できてしまうという欠点はある。

 以下重大なネタバレあるので未読者は注意。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず、一発勝負のアイデアは、さすがの早坂といった感じで安心。胎児は人間か? という話はまあよくあるネタではあるが、それを逆転させて胎児に殺人をさせてしまうのにはびっくり。そうさせるためのトリックは若干苦しい気もするけど、まあそこはご愛嬌ということで許容範囲内だと思う。

また、その一方でこのネタを扱う手つきは慎重。胎児ネタは、重大な問題を扱うのが下手な作家だと、たとえばディック「人間以前」みたいにくだらない女性軽視の発露になってしまう。でも『双蛇密室』では、問題を提示するだけ提示しておいて宙吊りにして、結論を出さない(探偵も哲学的な問題では真実を見つけることができないということなのかもだけど)。そういう態度は、くだらない思想を垂れ流すことなく読者に解答のない問題を考えさせることに成功していると思う。

ちなみに、蛇といえば円環のモチーフ(ウロボロス)だけど、この小説の場合は主人公とその父の性格が似てしまっていることの象徴になっている、ということは指摘しておきたい。そういう意味でも、蛇という本作のモチーフはうまく消化できている。

 

しかし、問題編は今までよりも退屈な気がした。その大部分は、「蛇を使った密室トリック」という前提にあるんだと思う。いやだって、蛇を使った密室トリックというのがタイトルからほぼ確定している小説の問題編なんて、面白くなるわけないじゃないですか。というか解答編も、蛇についてのちまちまとした雑学が繰り広げられることがほぼ確定しているので、早くびっくりするようなアイデア出てくれという思いで流し読みに近くなってしまった(まあこれは、早坂吝の小説に対する信頼の裏返しではあるんだけど……)。

早坂の小説はもともと問題編があんまりおもしろくないというのはあるけど、タイトル当てという全く関係のない要素を入れたり(『○○○○○○○○殺人事件』)、短編集にしたり(『虹の歯ブラシ』、『アリス・ザ・ワンダーキラー』)、いろいろうまく誤魔化せていたと思う。『誰も僕を裁けない』だと若干気にはなったけど、それでもまあ普通に読めるレベルではあった。でも今回の場合は、もともとの微妙さ×題材のコンボで相当苦しいと思う。

あと、途中でいきなり出てくる謎のバトルシーンはなんだったんだ。

 

やっぱ、早坂吝って短編のほうが面白いんじゃないのかなー。もちろんこのレベルで批評性のあるアイデアをポンポン生むのは難しいとは思うんだけど、これくらいのネタが5本入っている短編集とかあったらまず間違いなく絶賛の嵐だと思う。

 

 

おまけ。 

○○○○○○○○殺人事件 (講談社文庫)

○○○○○○○○殺人事件 (講談社文庫)

 

早坂のデビュー作『○○○○○○○○殺人事件』が講談社文庫で文庫化されるようです。筒井康隆殊能将之の某作品に並ぶ傑作だと思うので、まだ読んでいない人はこれを機に読んでみればいいと思う。