SF作家の不在こそがゼロ年代SFの特徴?/冲方丁ほか『ゼロ年代SF傑作選』
一読してめちゃくちゃびっくりしたのが、純粋なSF出身の作家が全然いないことである。秋山瑞人、冲方丁、桜坂洋、新城カズマ、長谷敏司がライトノベル出身で、海猫沢めろんと元長柾木がエロゲライター出身。西島大介はマンガ家。マジで「SF出身」の作家が一人もいないのである。シェアード・ワールド率の高さもその影響だろう。
そしてそれはおそらく、SFの編集者たちがどうにかして90年代のSF氷河期を乗り越えようと頑張っていた時期に、ラノベ作家やエロゲライターにSFを書いてもらっていたことの結果なんだと思う。そういう努力があったからこそ、伊藤計劃や円城塔の発掘を経て、10年代にSF出身のいい作家がたくさん排出されたんだろう。そう思うと、このややいびつなアンソロジーも、あまり悪くはいえない気がしてきた。
収録作品の中でぶっちぎりでよかったのは秋山瑞人「おれはミサイル」。航空機とミサイル以外一切の登場人物がいないという攻めた設定ながら、ちゃんとエモく仕上がっていてよかった。ほかはぶっちゃけあんま印象に残らない作品が多いが、冲方丁「マルドゥック・スクランブル"104"」、元長柾木「デイドリーム、鳥のように」あたりはよかったと思う。