ケン・リュウの中国SFの紹介ってだいぶ偏ってたんじゃ……/郝景芳『郝景芳短篇集』
短編集としてはそこそこといったところ。SFアイデアとしてぎょっとするようなものはあんまりないが、端正な文章でわりと読ませる。特に「弦の調べ」は、宇宙エレベーターを弦に見立てるスケールのデカさと淡々とした人間ドラマが無理なく両立していて良かった。
……ところで、以前読んだ『折りたたみ北京』で編者のケン・リュウは、中国SFを読む・紹介する際に、共産党の一党独裁という政治的な背景をことさら強調するべきでない、といったようなことをいっていた。けど、『折りたたみ北京』には明らかにディストピアSFばっかり載っていたので、そんなわけねーじゃんとぼくは思っていた。
でも、『郝景芳短篇集』を読んだ印象としては、たしかにあまり中国の政治体制の影響はそこまで感じられない。「北京 折りたたみの都市」(「折りたたみ北京」)がわりとオーソドックスなディストピアSFなのと、「弦の調べ」に登場する侵略者の宇宙人の支配が独裁体制っぽかったぐらいかなあ。
さて、『折りたたみ北京』でぼくが感じたのは、中国の政治体制の影響だ。でも、『郝景芳短篇集』ではそういう影響はあまり感じられない。だとすると……本人の言葉とは裏腹に、ケン・リュウがかなり偏ったセレクトをしたせいでディストピアSFがめっちゃ収録されていたのでは??? といったようなことを考えてしまった。もしそうなら、わりと褒められることの多い中国SFのインフルエンサーとしてのケン・リュウも、あんまり信用できないような気がしてきた。
折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー (ハヤカワ文庫SF)
- 作者: ケンリュウ,Ken Liu,中原尚哉
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2019/10/03
- メディア: 新書
- この商品を含むブログを見る