本を読むという行為の多様さについて/ナカムラクニオ『本の世界をめぐる冒険』

まあNHK出版から出ているゆるそうなシリーズの一冊ということでナメていたんだが、意外や意外、とても良い本だった。

基本的には本や読書の歴史を俯瞰する本だが、そこには著者の一貫した思想がある。それは、今ぼくたちが当たり前に思っている紙の本というメディア形式は普遍的なものではなく、時代や地域に応じてさまざまな読書文化があり得るという思想だ。個人的に特におもしろかったのは、発展途上国やロシアだと、本を輸送するためのインフラよりもインターネットのインフラのほうが発達していて、だから電子書籍の利用率が高いという話。いわれてみれば当たり前ではあるのだけど、一応先進国に分類される日本という国で暮らしていると、こういうのは盲点だ。

そしてそのような認識のもと、著者は電子書籍やオーディオブックといったものにも比較的肯定的で、それらは本の多様性の一部として捉えられている。これは、紙の本至上主義の人からすると受け入れがたいだろう。でも、時代や地域が違えば読書というものは全然異なるという認識と比較すると、紙の本至上主義は先進国中心の価値観の上に成立しており、本という概念をひどく狭く定義しているように見えてしまう。

ということで、紙の本至上主義の方々はあまり納得いかないかもしれないが、ぼくは本の多様性を称揚したすごく良い本だと思う。難点を挙げるとすれば、本文の記述のどこがどの参考文献を参照しているのかがわかりづらいことかな(一応巻末に参考文献リストはあるが)。まあゆるいシリーズだししょうがないのかなあ。