ホラーを自然化する/戸田山和久『恐怖の哲学』

ホラーというジャンルをベースに、感情の哲学から出発してホラー論を経由し、最終的に意識の哲学へと執着するたいへん欲張りな本。戸田山らしく、全体を通して自然主義唯物論が貫かれており、説得力のある説明となっている。とにかく感情とかホラーとかいった、一見すると不合理っぽい物事が、進化論的な意味での合理性によって説明されることの面白さに満ち溢れている。何でも自然主義的に考えてみるもんですねえ。

個別に見ると、感情の哲学についてはアンチョコとして非常によくまとまっているし。ホラー論については自然主義の立場から独特な形で、ホラーというジャンルを合理的に説明できている。意識の哲学についてはあまり唯物論的な立場をとることの魅力が出ていなかった気がするが、これはぼくの勉強不足もあるかも。

また、戸田山はホラー映画のファンのようで、全編を通してホラー映画についての大量の言及もある。ぼくはホラー映画にはあまり詳しくないので個別のホラー批評についての妥当性はわからないが、説明の補助としては有用だと思う。逆にホラー映画案内として使うこともできなくはないので、そういう意味でもお得。