今年の10冊(2017)
2017年に読んだ、印象に残った本およびその印象のまとめ(小説とノンフィクションをそれぞれ10冊ずつ)。
小説編
今年はいい小説をたくさん読んだので、どれが一番かは甲乙つけがたかったのだけど、その中では矢部嵩『魔女の子供はやってこない』(角川ホラー文庫、2013年)がとても良かった。あまりこの小説の良さをうまく言語化できていないんだけど、ファンタジーと百合とホラーとその他不純物諸々をひとつに混ぜ込んでそのまままとめ上げてしまったような化物。気になる人は実際に読んでみたほうが早いと思う。
純文学では、リアリズムファンタジーの極北ともいえる前田司郎『恋愛の解体と北区の滅亡』(講談社、2006年)が印象的。また、今村夏子『あひる』(書肆侃侃房、2016年)は、イヤーな感じの短編集でとてもよい。あと木下古栗『生成不純文学』(集英社、2017年)は、今年も本出せてよかったね(来年もお願いします)。
ミステリーでは、舞城王太郎『九十九十九』(講談社文庫、2007年)はメタミステリーとしてものすごく完成度が高く、しかも舞城お得意の家族ドラマまでうまく混ぜ込んでおり感動。森川智喜『キャットフード』(講談社文庫、2013年)はグロテスクなファンタジー世界で推理合戦をやるというハチャメチャっぷりに驚き。そして早坂吝『双蛇密室』(講談社ノベルス、2017年)は、お家芸ともいえる下ネタ→哲学的オチの流れに今回も満足させてもらった。
SFでは、赤野工作『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』(KADOKAWA、2017年)は架空のゲームレビューという体裁にもかかわらずそこから個人の感動的なストーリーを描いていてすばらしい。またカーツ『ソヴィエト・ファンタスチカの歴史』(共和国、2017年)は、ソ連の偽文学史を見事に描ききった労作。また、今年は久しぶりにライトノベルをいろいろ読んだ。その中では、大澤めぐみ『おにぎりスタッバー』(角川スニーカー文庫、2016年)が満足のできる出来だった。
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ノンフィクション編
今年読んだノンフィクションでは村井淳志『勘定奉行荻原重秀の生涯』(集英社新書、2007年)がぶっちぎりでトップ。一次資料を丹念に読み込んで今まで事実と思われていたことを根底から覆すところに、歴史学の重要性を大いに感じた。また、経済学の観点から通説にツッコミを入れる、という点もすばらしい。
また今年は、進化論関係の本をいろいろと読んだ。その中では、進化心理学周りのことを丁寧に扱った長谷川寿一、長谷川眞理子『進化と人間行動』(東京大学出版会、2000年)や、進化論を出発点にしてさまざまな事象を考察したピンカー『人間の本性を考える(上・中・下)』(NHKブックス、2004年)が収穫。また、吉川浩満『理不尽な進化』(朝日出版社、2014年)は、それらの本とは一歩違った哲学チックな視点から、進化というものをあらためて考えさせてくれる。
その他の分野では、松尾匡『この経済政策が民主主義を救う』(大月書店、2016年)は、野党が(いや本当は与党も)取るべき経済政策について、すっきりとした見通しを出せているのがよい。森下達『怪獣から読む戦後ポピュラー・カルチャー』(青弓社、2016年)は、ポピュラー・カルチャーではなぜ政治的な読解が嫌われるのかという個人的な疑問を解消してくれた。稲葉振一郎『宇宙倫理学入門』(ナカニシヤ出版、2016年)は、宇宙倫理学という一部の哲学なんかよりよっぽど思弁的な分野を扱っており、知的好奇心がガンガン刺激される。姫乃たま『職業としての地下アイドル』(朝日新書、2017年)は、現役地下アイドルによる地下アイドルの実態調査という変わった本。
学術系ではない本では、円城塔、田辺青蛙『読書で離婚を考えた。』(幻冬舎、2017年)は、書評という体裁の上で繰り広げられる痴話喧嘩、という世にも珍しい本だった。また勝間和代『勝間式 超ロジカル家事』(アチーブメント出版、2017年)は、家事の機械化を進める上で大変参考になるし、女性を家事から解放するという意味でもたいへん意義深い本だと思う。
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