村田沙耶香の脳内を見せてくれる貴重な本/村田沙耶香『となりの脳世界』

となりの脳世界

となりの脳世界

 

 村田沙耶香は、何を考えているのかだいぶわかりづらい人間だと思う。テレビとかに出ていてもすごく無害そうな表情をしているくせに、普段小説で書いているようなかなり際どい発言をしたりしているのをみると、「これはキャラなのか? それとも素なのか?」と思ってしまうのも仕方ないだろう。

そんな村田沙耶香の脳の中身(の一部)を見せてくれるのが、このエッセイ集だ。小説とノリはあまり変わらないといえば変わらないんだけど、村田の小説って(特に初期は)けっこう似たような話が多いので、エッセイという形式だと新鮮に読める。あとまあ、けっこう友人とでかけたエピソードなんかもあって、意外と真人間やってるんだなというのが逆に驚きでもあった。

またファンアイテムとしては、小説の元ネタエピソードなんかもちらほら見え隠れする。コンビニの話とか習字教室の話とかがそれだ。そこら辺を踏まえると、村田ファンであればあるほど楽しめる本だと思う。もちろん村田沙耶香がどんな人間か全く知らなくても楽しめますが。

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ペルソナってピクミンに似てるのかも?/「ペルソナQ」

ペルソナQ シャドウ オブ ザ ラビリンス - 3DS

ペルソナQ シャドウ オブ ザ ラビリンス - 3DS

 

プレイしながら、漫然と「なんか物足りないなあ~」という印象がずっとあったゲーム。で、クリア直前あたりでようやくその物足りなさの正体に気づけた。 ぼくはペルソナシリーズ(ペルソナ3~5)を好きではあったんだけど、正確には「締切のあるスケジュールの中で、なるべく効率良い予定を立てて実行する」のがたまらなく好きだったのだ。そしてそういう要素があるゲームといえば「ピクミン」。ぼくも「ピクミン」は大好きなゲームなんだけど、まさかペルソナとピクミンにそんな共通点があるなんて思わなかったので、そのことに気づけたのはラッキー。

というわけで、まあ、そんな感じです。「ペルソナQ」は良くも悪くも「ペルソナ3」とか「ペルソナ4」とかとはだいぶ違うゲームなので、原作を好きな人が「ペルソナQ」を気に入るかどうかは疑問(逆に、原作のゲームシステムがそこまで好きじゃない人がこっちをやるとハマる、ということもあり得る)。

 

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明るく易しいDMC/「ベヨネッタ」

ベヨネッタ|オンラインコード版

ベヨネッタ|オンラインコード版

 

 デビルメイクライシリーズが好きな人にとっては、物足りなさを感じる部分があるかも。でも、個人的にはかなり楽しく遊べた。

 DMCシリーズと比較すると、多くの点で「ベヨネッタ」は易しい設計になっていると思う。回避ボタンからの無敵時間発生で、敵の攻撃をあまり気にせずにコンボを叩き込める、というゲームシステムは、とくにヌルゲーマーにとってはすさまじく爽快にゲームを楽しめる。また、ステージ構造は比較的単純で、マップをいちいち開いてにらめっこしながらちょっとずつ進む、みたいな疲れることをしなくてもすむのがありがたい。

 また、雰囲気はやたら明るくなってるのも個人的にはポイント高い。ぼくは非常に怖がりな人間なので、DMC程度の雰囲気ですら結構ビビってしまう。そんなぼくからすると、暗い雰囲気を取っ払い、かといって平凡な敵キャラ造形にはせず、明るさとグロテスクさを「天使」という形で両立させたのは見事。

 

ただまあ、これらの長所は、ぼくみたいにDMCのゲームシステムには惹かれつつも、DMC自体はハードルが高いと感じていた人間にとっての長所ではある。とくにマップについては、ヌルさを感じる人も多いだろう(ぼくも微妙に感じた)。また雰囲気についても、「明るいけどグロい」よりはいっそ普通に暗い雰囲気でグロいゲームのほうがいい、という人もいるはず。

あと単純に残念に感じた点として、ボリューム不足感はある。マップの単純さに加えて、チャプター数が2少なく、かつボス戦をするだけのチャプターもあるため、1週するだけならサクっと終わるなーという印象。まあやりこみやれっていう話かもしれないですが。

 

とはいえ、ヌルゲーマー・初心者に易しい作りだというのはたぶんそう。DMC系のゲームに興味あるけど難しそうっていう人はこっちやってもいいんじゃないかな。

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ファンサービス満載ではあるんだけど/早坂吝『メーラーデーモンの戦慄』

メーラーデーモンの戦慄 (講談社ノベルス)

メーラーデーモンの戦慄 (講談社ノベルス)

 

 上木らいちシリーズの集大成ではある。上木らいちシリーズの過去4作にたびたび言及し、さらにはゲストキャラを登場させたりするなど、ファンサービス満載。上木らいちシリーズは傑作揃いなので、それらを思い出すだけでも楽しさを感じることはできる。

ただし、それは一見さんお断りであることと一緒ではある。ぼくがこの間読んだ村田沙耶香『地球星人』は、数々の描写や設定から過去の作品が連想される作品だったけど、今作の場合はもっと直接的な参照である。そのため、過去作を読んでないとどこが面白いのかわからないと思う。

 というわけで、今作も一種のファンアイテムとして扱うべきではある。なんだけど……。

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村田沙耶香の集大成兼寄せ集め/村田沙耶香『地球星人』

地球星人

地球星人

 

ある意味でこの小説は、村田沙耶香の小説の集大成といえるだろう。この小説には、過去に村田が書いてきたテーマがふんだんに詰め込まれている。小説前半の、主人公と由宇との関係は、デビューから『しろいろの街の、その骨の体温の』のころまでの作風を思わせるし、後半のいびつな共同生活を読んでると「殺人出産」「トリプル」「清潔な結婚」、そして皆さんご存知『コンビニ人間』なんかを思い出す。村田ファンにとっては、「ここ、あの小説と同じだ!」といったような発見に満ち溢れた小説といえるだろう。

 そして、この小説はそれだけかもしれない。読み進めていて、過去の小説とのつながりを見出すことの楽しさはあっても、それはこの小説自体の良さを意味するわけではない。ぼくはこの小説を村田沙耶香の集大成といったけど、それは「寄せ集め」と表裏一体なんだと思う。ぼくは村田沙耶香の大ファンだからそれでも楽しめるけど、そうでない人にとっては……。

もちろん、さすがに村田沙耶香なので、それでもそれなりに読めるものになってしまい、読み進めるのが苦痛というわけではない。また、「地球星人」「人間工場」といった造語の数々には、未だ衰えぬ村田のシニカルなセンスを感じることができる。

でも、ファンアイテムかなあ。少なくとも、村田沙耶香の本をあんまり読んだことのない人が読む本ではない。

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