悪い意味で援交探偵シリーズとは別物/早坂吝『アリス・ザ・ワンダーキラー』

 

アリス・ザ・ワンダーキラー

アリス・ザ・ワンダーキラー

 

 悪いわけではないものの、大いに期待はずれ……と思いながら他の人の感想を見てみると、思ったよりも好意的で驚いた。ぼくが思い描いている早坂吝像と、他の人が思い描いている早坂像ってそんなに違うのかしら。ぼくは敬虔なミステリ読みではなく、文化左翼かぶれみたいな読み方で援交探偵シリーズを読んでたので、ミステリー作家としての早坂を過小評価しているところはありますが、それにしてもこのズレっぷりは……。

あと、無教養なぼくは『鏡の国のアリス』を読んでないので、一部のパロディを理解していないようだ(ついでにいうと『不思議の国のアリス』を読んだのもだいぶ昔だ)。が、そのパロディがわかったところで、評価が劇的に変わるとは思えません。
例のごとく以下ネタバレ多数。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず、各短編はそこそこ面白いと思った。ハンプティ・ダンプティの話はちょっと微妙かなとは思ったけど、それ以外は十分。個人的にはクッキーの話が1番好き。
ついでに、今までの作品よりも文章がそこまで気にならなかった。ぼくが慣れた可能性もあるけど、まあ言葉遊び入れる余裕もあるみたいなので、それはいいこと。

 

が、大きなほうの仕掛けについてはかなりめちゃくちゃだと思う。VRの設定の後出し感はすさまじいし、主人公の母が実は殺し屋だとかわりとどうでもいい(どうでもいいけど母が殺し屋だってわりと簡単に予想つきません?)。帯の「ドンデン返し」ってどういうことですか? そんなにドンデン返ってないと思う。

そしてこれまでの早坂作品も、そういうめちゃくちゃさを孕んでいたとは言えなくもない。たとえば『○○○○○○○○殺人事件』の題名当て。『虹の歯ブラシ』のラスト。それから援交探偵そのもの(『誰も僕を裁けない』ではうまくいってたけど)。どれもこれもちょっと面食らってしまう。
でも、それらの作品には、仕掛けが小説内で完結せずに現実世界やミステリーという形式そのものに爪痕を残してしまう、射程距離の長さがあった。そしてそういう要素が、迂闊な部分を救っていたという側面はあると思う。
では、この作品の場合はどうか? そういうところは全然ない。もしかして『RPGスクール』とかもそういうところないんですか? そうなら期待したぼくがバカでもあるんだけど、とはいえ期待はずれ感はそのまま。そういう意味でこの小説は、悪いわけではないんだけど、凡百のミステリー止まりになってると思う。


といったことを思いながら評判を漁ってみたんだけれど、予想していたよりずっと評価高そうでびっくり。思ったよりもぼくは文化左翼にかぶれちゃっていたのかと思うとつらい(でもそういうのをかなりアクロバットにやっちゃうのが援交探偵シリーズの魅力でもあると思うんですよ)。唯一杉江松恋の書評はぼくと似たような感じになってるので一応安心……していいの?