不条理だけが不条理小説じゃない/石川宗生『半分世界』

半分世界 (創元日本SF叢書)

半分世界 (創元日本SF叢書)

 

 不条理小説ではあるんだけど、不条理そのものだけではなく各所に散りばめられたユーモアがかなりおもしろい。普通この手の小説だと「雰囲気がいい」みたいな褒めているんだか皮肉なんだかよくわからない褒め言葉が出てきがちなんだけど、本書は自信を持って「雰囲気以外もいい」といえる。

その他の特徴としては、あまり小説的でない文体(ノンフィクション調など)が積極的に採用されている。必然性はあまり見出だせなかったが、読みやすいのは確か。

 

 以下個別の感想。

第7回創元SF短編賞受賞作の「吉田同名」は、吉田さんというある人間がいきなり1万人以上増えるという、かなーり奇妙な話。それをそのまま単純に小説にしてしまうとたぶん支離滅裂になってしまいそうだが、この小説の場合はノンフィクション調の文体でやや客観的に書くことによって崩壊を防いでいる。若干メタフィクションっぽい要素もあるけど、カルヴィーノ(作中にも登場している)を意識しているのかしら?

表題作「半分世界」メタフィクションっぽい。「読者→作中内人物」という非対称な関係が最後に破られるところは痛快。文字通り「第四の壁」を破るという話なんじゃないかな? ただし筋らしい筋がほとんどないという欠点はある。

「白黒ダービー小史」は、せっかく白と黒の2つの民族(?)のスポーツ闘争の歴史という、たいへんおもしろそうなネタを扱っているのに、「歴史を語る」という形式自体があまり前面に出ていなかったのが残念。もう少し「信頼できない語り手」とかを前面に押し出したほうがぼく好みではあった。それでもギャグのキレはいいし、不条理小説らしからぬ青春文学としての側面もある。

「バス停夜想曲、あるいはロッタリー999」は、コルタサル「南部高速道路」安部公房『砂の女』を混ぜた上で年代記にしたような話。コロコロ文体が変わるのとやや長いのが、若干のマイナスポイントか。