今年の10冊(2020)

2020年に読んだ、印象に残った本およびその印象のまとめ(小説とノンフィクションをそれぞれ10冊ずつ)。




小説編

今年のベストはスタニスワフ・レム虚数』(国書刊行会、1998年)。人間とは違った在り方の知性を、架空の本の序文によって検討するという唯一無二の小説。メタフィクションという言葉で済ますのはたいへんもったいない傑作だと思う。

その他SF小説だと、ジーン・ウルフケルベロス第五の首』(国書刊行会、2004年)は、非常に迂遠なやり方で異様な世界を描く労作。ダニエル・キイスアルジャーノンに花束を〔新板〕』(ハヤカワ文庫NV、2015年)は、知性の発達と劣化を主観視点から書ききっており、名作と呼ばれるにふさわしい。藤井太洋『ワン・モア・ヌーク』(新潮文庫、2020年)は、藤井らしい地に足のついた原爆サスペンス。劉慈欣『三体Ⅱ(上・下)』(早川書房、2020年)は相変わらずのバカSFっぷりと翻訳の素晴らしさが光る。

純文学では、今村夏子『むらさきのスカートの女』(朝日新聞出版、2019年)は、信頼できない語り手をうまく純文学的なノリに組み込んだ芥川賞受賞作。村田沙耶香『変半身』(筑摩書房、2019年)は、表題作が村田の小説の中でも屈指の傑作フェミニズム小説だと思う。木下古栗『サピエンス前戯』(河出書房新社、2020年)は、『文藝』に「新連載」と称して第1回のみが掲載されていた3作に、それぞれ「その後の展開」を加筆した小説集で、特に表題作に古栗の面の皮の厚さが表れている。

また、今年はミステリー小説を多めに読んだ。その中だと、圧倒的な青春感で京都の連続殺人事件を描いた西尾維新クビシメロマンチスト』(講談社文庫、2008年)と、ほんのりイヤミスを短編にコンパクトにまとめた辻村深月『鍵のない夢を見る』(文春文庫、2015年)が良かった。

虚数 (文学の冒険シリーズ)

虚数 (文学の冒険シリーズ)

ケルベロス第五の首 (未来の文学)

ケルベロス第五の首 (未来の文学)

ワン・モア・ヌーク(新潮文庫)

ワン・モア・ヌーク(新潮文庫)

三体Ⅱ 黒暗森林(上)

三体Ⅱ 黒暗森林(上)

三体Ⅱ 黒暗森林(下)

三体Ⅱ 黒暗森林(下)

むらさきのスカートの女

むらさきのスカートの女

変半身(かわりみ)

変半身(かわりみ)

サピエンス前戯 長編小説集

サピエンス前戯 長編小説集

鍵のない夢を見る (文春文庫)

鍵のない夢を見る (文春文庫)




ノンフィクション編

今年のベストはなんといっても東畑開人『居るのはつらいよ』(医学書院、2019年)デイケア参加者の悪戦苦闘っぷりをいきいきと描いた傑作エッセイで、素直に感動してしまった。

今年は「仁王」「SEKIRO」などの戦国時代ゲームをいくつかやった流れで、日本史の本を色々読んだ。その中では、神田千里『織田信長』(ちくま新書、2014年)金子拓『織田信長』(河出書房新社、2017年)は、凡人としての信長像を示した本で、非常に新鮮。清水克行『戦国大名と分国法』(岩波新書、2018年)は、さらっと流しがちな分国法という概念について、条文と実態の両面から概説した本。

文学研究では、佐野幹『「山月記」はなぜ国民教材となったのか』(大修館書店、2013年)は国語教科書のプロパガンダ的な側面を強調した「山月記」受容史。前島賢セカイ系とは何か』(星海社文庫、2014年)は、「セカイ系」という言葉が諸評論家によっていかに雑に使われたかを示した本。川口則弘芥川賞物語』(文春文庫、2015年)は、膨大なデータに基づいた芥川賞史。

その他だと、伊藤計劃伊藤計劃記録(1・2)』(ハヤカワ文庫JA、2015年)伊藤計劃のさまざまな雑文がまとめられた本で、生活感のある伊藤計劃という不思議な感覚を味わえる。サミュエル・I・シュウォルツ『ドライバーレスの衝撃』(白揚社、2019年)は、自動運転技術をこれでもかというぐらい多角的に論じた本。ユヴァル・ノア・ハラリ『21 Lessons』(河出書房新社、2019年)は、現代におけるかなりスタンダードな教養の書。

織田信長 (ちくま新書)

織田信長 (ちくま新書)

織田信長 不器用すぎた天下人

織田信長 不器用すぎた天下人

  • 作者:金子拓
  • 発売日: 2017/04/22
  • メディア: 単行本
戦国大名と分国法 (岩波新書)

戦国大名と分国法 (岩波新書)

「山月記」はなぜ国民教材となったのか

「山月記」はなぜ国民教材となったのか

  • 作者:佐野 幹
  • 発売日: 2013/07/31
  • メディア: 単行本
セカイ系とは何か (星海社文庫)

セカイ系とは何か (星海社文庫)

  • 作者:前島 賢
  • 発売日: 2014/04/11
  • メディア: 文庫
芥川賞物語 (文春文庫)

芥川賞物語 (文春文庫)

伊藤計劃記録 Ⅰ (ハヤカワ文庫JA)

伊藤計劃記録 Ⅰ (ハヤカワ文庫JA)

伊藤計劃記録 Ⅱ (ハヤカワ文庫JA)

伊藤計劃記録 Ⅱ (ハヤカワ文庫JA)