「レヴィットの大相撲研究は行動経済学」?:あるいは「行動経済学」という名称のややこしさについて

ヤバい経済学 [増補改訂版]

ヤバい経済学 [増補改訂版]

 

  『超ヤバい経済学』を読んでいたとき、気になることがあったのでGoogle検索をしていたところ、たまたまこんな記事が引っかかった。

zuuonline.com

 記事自体は、セイラーのノーベル経済学賞受賞を解説したものなんだけど、冒頭にこんな一節がある。

もう10年前になるが、シカゴ大学のスティーブン・D・レヴィット氏が著書『ヤバイ経済学』の中で、大相撲について衝撃的な調査結果を披露した。

レヴィット氏は11年間にわたり3万を超える割り(試合のこと)データを調べ上げ、その結果、「7勝7敗の力士と8勝6敗の力士が対戦すると、前者の勝率は8割に達する」との結論に達した。

勝率があまりにも偏っている、つまり人間は必ずしも合理的な判断・行動をとらないことをデータは物語っている。こうした手法も行動経済学の一つである。

 え???????

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「ヤバい経済学」で涙ぐんでしまうとは/スティーヴン・レヴィット、スティーヴン・ダブナー『超ヤバい経済学』

超ヤバい経済学

超ヤバい経済学

 

 『ヤバい経済学』は、経済学や統計学の手法を犯罪の統計から大相撲の試合結果まで、さまざまなものに応用したことで有名だ。そしてそれらの研究自体が興味深いだけでなく、語り口も大変面白い。だから、読んでいて笑いを堪えるのが大変だ。

ただその一方で、「経済学や統計学をさまざまなものに応用する」というコンセプトは、「議論が体系的にならず、散漫になってしまう」という問題を必然的に引き起こす。なので、読んでるときは楽しいけどあんまり頭に残らない、という人もそれなりにいるはず。

続編の『超ヤバい経済学』も、基本的には前著と同じ。本書の議論は大変刺激的で面白い一方で、散漫な議論にはやはり馴染めなかった。

 

なんだけど……。

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SFにも映画にも興味ない友人とワイワイ観る映画/ショーン・レヴィ「リアル・スティール」

 非常にストレートなお話。なので、話の先がすぐ読める。こんなに驚きの少ない映画を見るのは久し振りだった。さらにいえば、いい話を作ろうとしているのに主人公がわりとクズで、お話にのめり込めない。

SFとしてもかなりイマイチで、ツッコミは無限に出来る。ロボットとパソコンとスマホ以外の未来要素がゼロなのにはびっくりした。

とはいえ、トータルで見たときにダメかというとそこまでダメというわけでもなく、ダメなストーリーとダメな設定でちょうどよくバランスが取れており、まあ観れなくはない。SFにも映画にも興味ない友人数人とワイワイ観るとそこそこ楽しめるのでは。

 

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戦闘がとにかく面白い/「Undertale」

とにかく戦闘システムが面白い、の一言に尽きる。自分のテクニックによって相手の攻撃を避けることができるRPGというのがとにかく刺激的。ルートによっては初期レベルでラスボスと戦わなければいけないということもあり、進めば進むほど緊張感が高まる。

また、ユーザーにやたらと親切なのも嬉しいところ。一回見たシーンをスキップできるというのは、2周も3周も遊ぶこと前提のゲームを遊ぶ身としてはとてもありがたい。

ストーリーはそこそこといった感じ。正直メタを前面に押し出す手法はあまり好きではないんだけど、まあ1000円のゲームにそんな文句言ってもしょうがないし……。

日本の労働社会のせいで日本は男女不平等なのかもしれない/濱口桂一郎『働く女子の運命』

働く女子の運命 (文春新書)
 

 日本がたいへん男女不平等な国だと言われているのは、各種ニュースでご存知の通り。先日話題となった、はあちゅうを巡る騒動なんかを見ても、なんとなくそれはわかる。はあちゅう個人のおかしさををフェミニズム全体の問題と同一視するような風潮は、まさに男尊女卑的な発想が多くの人に共有されていることを示しているように思う。

だが、なぜそんなに日本は男女不平等なのだろうか? 本書にもある通り、「前近代社会からずっと、日本は決して女性の地位の低い国では」(濱口桂一郎『働く女子の運命』文春新書、2015年、p.4)なかった。それが、近代を経て現代へと至る中で、逆にどんどん女性の地位が低下していったというのは、かなり変な現象に思える。これは単なる偶然なのだろうか?

 

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社会人にとっては馴染みの薄い大学図書館の、手際の良い紹介/斉藤道子『首都圏 大学図書館ガイド』

首都圏 大学図書館ガイド オトナの知的空間案内

首都圏 大学図書館ガイド オトナの知的空間案内

 

 ぼくは一般的な人に比べると本を買うのにかける金額はかなり多いと思うんだけど、それでもウン千円もする本をポンポン買うほどの裕福さや熱意はない。しかし、そんな本の中にも、どうしても読みたい本は存在するだろう。しかし、そういった本の需要は少なく、なかなか普通の区立図書館には入っていないことも多い。

そういうときに役立つのがこの本だ。この本では、首都圏にある、一般人でも利用できる大学図書館のうちいくつかが紹介されている。副題の「オトナの知的空間案内」というのがまさに言い得て妙で、社会人(というか「非学生」)にとってはなかなか接する機会の少ない大学図書館という空間を、丁寧に案内してくれる。ついでにいうと、こういう本が出版されて大学図書館の一般利用者数が増えれば、それは大学図書館にとってもメリットがあるのでは?(主に予算とか予算とか予算とか……)

また、各図書館の特色を紹介しているのも面白い。ぼくは、大学図書館ごとに独自の試みが行われているということを今まであまり意識したことがなかったので(というか普通は意識しないと思う)、そういうことを発見できたのは収穫だった。

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