『なめ敵』以降の伴名練を代表する大傑作/伴名練「百年文通 one hundred years distance」

コミック百合姫』の表紙で今年1年間連載していた伴名練の小説「百年文通 one hundred years distance」が完結した。まず第一に、『コミック百合姫』にもかかわらず(あるいは『コミック百合姫』だから?)百合成分も抑え目に、小説家伴名練の想像力がいかんなく発揮されたポストコロナSFである。科学的な考証は控えめなため、ハードSF読みには物足りないかもしれないが、コミカルからシリアスまで軽快なノリで、その分読みやすさはある。セカイ系的な安易な悲劇に落とそうと思えば落とせるところをそうはせず、苦しくも明るいラストに仕上げたのは、SFと現実との向き合い方を意識したのかなと思って感動した。

また、今までの伴名練の集大成的な側面もあり、戦前趣味・歴史改変SF・姉妹百合といった、過去作で用いられていたさまざまなモチーフがふんだんに詰め込まれている。「全てのアイドルが老いない世界」が、同様に過去作で用いたモチーフを活用しつつもやや手癖で書いた感は否めなかったのに対し、こちらはそんな荒っぽさは全くなくてほっとした。

そして何よりも、連載という形式を完璧に活かしきっている。週刊連載マンガや連続ドラマも顔負けのクリフハンガーや、「ホーリーアイアンメイデン」や「ひかりより速く、ゆるやかに」などでも見られた情報提示タイミングの調整の巧みさなどを惜しみなく活用し、エンタメ連載小説としてこの上ない仕上がりになっている(そういう意味では、ぼくはこれを一気読みしてしまったので、そこは若干失敗だったかも)。その巧みさは、計算しつくされた構成で日本ホラー小説大賞を受賞したデビュー作「少女禁区」でも見られたものだが、10年かけて明らかに腕は向上しており、あざとさの薄い極めて洗練されたものとなっている。

というわけで、コロナの時代に書かれた、『なめらかな世界と、その敵』以降の伴名練を代表する大傑作です。書籍化されていない短編もだいぶ増えてきたので、これと一緒にはやく書籍化してください。

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木下古栗「天使たちの野合」が『変愛小説集 日本作家編』文庫版から削除されているのは講談社とトラブったため?

木下古栗は単著に収録されてない短編小説が大量にあるのだけれど、その1つが岸本佐知子編『変愛小説集 日本作家編』(講談社、2014年)に収録されている「天使たちの野合」だ。なのだけど、この短編、実は文庫版では未収録となっている。編者の岸本佐知子曰く「文庫化に際して、一部再録のかなわなかった作品がある」(岸本佐知子「文庫版あとがき」『変愛小説集 日本作家編』講談社文庫、2018年、p.286)とのこと。

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ボートレース場近くのカジュアル温泉/平和島温泉 天然温泉 平和島

www.heiwajima-onsen.jp
わりとカジュアル感あふれる温泉ではあるんだが、メインの温泉はやや黄色がかった塩分高めの泉質で、思っていたよりはまあまあ。複合施設の一角なので、外に出れば飲食店やアミューズメント施設もいろいろあるのがいいところかなあ。すぐ近くにボートレース場があるので客層は悪いのではないかと思ったが、露骨に悪いということはなかった。

ゼロからトースターを作った狂人の記録/トーマス・トウェイツ『ゼロからトースターを作ってみた結果』

なんといっても著者の狂ったようなバイタリティがすごく、そのイカれっぷりが大変軽妙な筆致で綴られるので全編通して笑いっぱなしだった。そしてそれを通して、高度に発達した現代社会の危うい一面と、そんな危うさを簡単に覆い隠して有り余るほどの素晴らしさも見えてくる。200ページ程度と短い本ですが、たいへん満足度の高い本です。