「○○っす」とジェンダー解体の意外なつながり/中村桃子『新敬語「マジヤバイっす」』

まず、「○○っす」という言葉遣いが、単なる教養のない若者の言葉というだけでなく、敬意と親しさの両方を表現する機能を持つというだけでもけっこう面白い。とはいえ本書のキモは、「○○っす」がCMなどのメディアにおいて、ジェンダー規範を解体しているという分析。ここらへんの分析はマジ面白いっす。

若干不満なのは、中村が「○○っす」を、ジェンダー規範を解体するものでもあり強化するものでもある、としている点。中村は、CMなどで女性が「○○っす」を使ってジェンダー規範を解体しているが、それはフィクションなので、現実との対比でジェンダー規範を強化する側面がある、としている。でも、少数とはいえ実際に女性が「○○っす」を使っているというのは、本書でも示されていること。「○○っす」を使って女性のジェンダー規範を解体するという動きがあまり進んでいない、というのであればわかるけど、ジェンダー規範を強化するとまでいってしまうと言い過ぎでは。根拠もあまり明確ではないし。ただしこの批判は、中村自身の「○○っす」によるジェンダー規範の解体という分析が、きわめて説得力があるということの裏返しでもある。