イヤ純文学の原石/今村夏子『こちらあみ子』

今村夏子の小説は何冊か読んでいるので、あらすじを読んで「へえ~今村夏子にも元気でまっとうな小説を書いている時期があったんだ」と思ったんですが、いやいや全然そんな話じゃないじゃないですか。まさに『あひる』やら『むらさきのスカートの女』やらに通じる、イヤ純文学の原石でした。このあらすじはいくらなんでも的外れすぎると思ったんですが、一応ウソを書いているわけではないので、なんか意図的に読者を誤解させるあらすじにしているようにも見えて、そうだったらすごい。3作とも正常ではない人間を、信頼できない語り手や三人称という文学的手法を駆使して不穏さムンムンで描いている。よくよく考えるとそういう手法を取ること自体倫理的にどうなのというツッコミはあり得るが、とはいえよくできている。