10年代の面白い日本SFを網羅するアンソロジー/大森望、伴名練編『2010年代SF傑作選(1・2)』
特に感心したのは藤井太洋「従卒トム」の収録。藤井は現実の延長線上を描いたSFに定評がある作家で、普通に藤井の代表短編を選ばせたら「公正的戦闘規範」とかになるであろうところを、決して藤井太洋を代表するとは言い難い「従卒トム」を選んでいるというのは、小説的な面白さを優先したといったところか。賛否両論あるとは思うがぼくはこの方針のほうが好き。藤井に限らず、全体的にジャンルSF色がやや薄いのも、SFっぽさよりも面白さを優先しているのだろう。
続きを読む「○○っす」とジェンダー解体の意外なつながり/中村桃子『新敬語「マジヤバイっす」』
- 作者:桃子, 中村
- 発売日: 2020/03/12
- メディア: 単行本
若干不満なのは、中村が「○○っす」を、ジェンダー規範を解体するものでもあり強化するものでもある、としている点。中村は、CMなどで女性が「○○っす」を使ってジェンダー規範を解体しているが、それはフィクションなので、現実との対比でジェンダー規範を強化する側面がある、としている。でも、少数とはいえ実際に女性が「○○っす」を使っているというのは、本書でも示されていること。「○○っす」を使って女性のジェンダー規範を解体するという動きがあまり進んでいない、というのであればわかるけど、ジェンダー規範を強化するとまでいってしまうと言い過ぎでは。根拠もあまり明確ではないし。ただしこの批判は、中村自身の「○○っす」によるジェンダー規範の解体という分析が、きわめて説得力があるということの裏返しでもある。
風俗小説やメタミステリーとしてはだいぶ力作/辻真先『たかが殺人じゃないか』
中島敦って実はめちゃくちゃ頭でっかちインテリ嫌いだったのでは?/中島敦「かめれおん日記」
- 作者:中島 敦
- 発売日: 2008/03/10
- メディア: 文庫
でも「かめれおん日記」を読むと、ちょっとそんなに呑気なことはいってられないかもという感じがしてくる。「かめれおん日記」の大部分を占めているのは、「内省」程度のぬるい言葉ではすまされないレベルの、過激な頭でっかちインテリ嫌悪だ。「かめれおん日記」自体、やや混乱したあまりうまくない小説であるんだけど、それがかえってインテリ嫌悪の気持ちが強いことを強調するようにも思える。そういうことを背景にすると、「山月記」は、そういったインテリ嫌悪的な要素を、極めて上手に話の中に組み入れることに成功した小説なのかなあとも思えてきた。
続きを読む政治と宗教によって歪められてきた時間の歴史/リオフランク・ホルフォード‐ストレブンズ『暦と時間の歴史』
- 作者:Leofranc Holford-Strevens
- 発売日: 2013/09/26
- メディア: 新書
ただ翻訳は微妙。文章自体は柔らかいのにところどころまったく意味の取れない文が出てくるという、珍しいタイプの悪訳だと思う。
読んだ本(2021/2)
2月に読んだ本のまとめ。
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