イグノーベル賞のハイゼンベルグ確定性講演は廃止され、24/7レクチャーとなった

イグノーベル賞にはハイゼンベルグ確定性講演という短いスピーチがあるというのを、山形浩生ポール・クルーグマンの講演を訳したもので知っていた。
cruel.org
……のだけれど、この講演の情報、日本語では他に全然情報が見当たらない。ググってもハイゼンベルグ不確定性原理ばっかヒットするし。五十嵐杏南というサイエンスライターによるイグノーベル賞の解説本『ヘンな科学』でも、ハイゼンベルグ確定性講演の情報は載っていなかった。

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こんなばかSFにまじになっちゃってどうするの/三島由紀夫『美しい星』

おもしろーい。信頼できない語り手というか、信頼できない作者というか。自分は宇宙人だと断言する胡散臭い家族がまあまあでかい騒動を起こすドタバタコメディ寄りの話として読むのが素直だと思う。暁子を妊娠させた後に失踪した竹宮について重一郎がウソをついたり、重一郎の癌について一雄や暁子がウソをつくといったエピソードも、たぶん大杉家が宇宙人だというのはウソだという部分に対応している。

核兵器だの近代文明批判だのはけっこうマジで言っている部分もあるとは思うんだけど、その一方でそういう主張が大杉一家やさらに胡散臭い万年助教授とかによって語られることで、いい塩梅に相対化されている。絶妙なバランスで成立しているバカSF(全部妄想でしたーをSFといえるかは微妙だが)です。また、そういう軽いノリのおかげでかなり読みやすくもあるのもいいところ。

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加藤シゲアキにしか書けないゲデモノ小説/加藤シゲアキ『チュベローズで待ってる』

すっげー。上巻「AGE22」はよくある就活青春小説って感じであまり面白くないんだが、下巻「AGE32」に入ってからは恋愛小説と近未来SFとミステリーをごちゃ混ぜにした、ゲデモノ的な形で強烈に印象に残る小説になっている。それでいて、文学としてもSFとしてもミステリーとしてもそつなく器用にこなしており、非常に丁寧にゲデモノが構成されている。そして何より、「この小説の著者が加藤シゲアキである」という時点で普通の読書家はこの小説をナメてかかってしまうわけで、それを逆手に取ってフリにしてしまうというのは、まさに「加藤シゲアキにしか書けない」小説だと思う。

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料理の理屈を理解する/五藤隆介『チューブ生姜適量ではなくて1cmがいい人の理系の料理』

サンプルだけ読んで、料理初心者のためにやたらとバカ丁寧に具体的なレシピが書いてあるだけの本かと勘違いしていたんですが、あらためて読んでみたら思ったよりもよい本だった。ひとつひとつの用語の定義を明確にしてくれるので、曖昧さがない。また、料理の工程や調味料の役割、食材の保存方法などを物理的あるいは化学的に平易に説明しており、料理の理屈が理解できるようになっている。ちょっと内容的に薄すぎるきらいはあるし、レシピが1つしか載っていないのは難点ですが、そこはググれカスっていうことで。

ミステリーは平和のためにある/米澤穂信『黒牢城』

管理職おじさんの荒木村重が、牢屋に閉じ込めた安楽椅子探偵黒田官兵衛に謎を推理してもらって城中の平穏を守る話。まず単純に、本格ミステリのお約束を戦国時代という時代に落とし込むのがうまい。首が切断された死体、陸の孤島といった現実離れしていそうな道具が、不自然さをまったく感じさせずに登場する。うっとおしいミステリージャーゴンが排除されているのでだいぶ新鮮味はあるし、現場保存みたいな読み手にとってはどうでもいい面倒な手続きがないのも、話が早くて良い。

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